金子文子 わたしはわたし自身を生きる―手記・調書・歌・年譜 (自由をつくる)

幸徳事件、虎ノ門事件につづく、第三の「大逆事件」の被告として死刑判決を受けた金子文子。ほとんど冤罪に等しいこの事件は、その後、天皇の「仁慈」を演出するため、無期懲役への減刑措置がとられるのだが、彼女はそれに反発し、獄中にてわずか23歳の生涯をみずからで閉じ、縊死してしまう。管野スガや伊藤野枝にくらべて、残念ながら金子文子の知名度は決して高いとはいえない。本書は、その文子が獄中で著した長編手記や短歌、裁判での訊問調書、誕生からの詳細な年譜を、没後80周年記念出版としてコンパクトにまとめたもの。やや誤植等もあるのだが、金子文子を知るための入門書としては好適な一冊かもしれない。とりわけ一般にはほとんど知られてこなかった、法廷におけるきわめて鮮烈な文子の発言が、読みやすい現代文で刊行されたことの意味は小さくないと思う。しかしながら、肝心の手記部分が原著の3分の2程度の抄録であることは、この本の書物としての完成度を損ねているように思えてならない。特に、朝鮮渡航以前の幼少期の記述がすべて省略されているのは残念で、改版されるのであればぜひ全文を収録してもらいたいもの。さらに、それ以上に問題なのは、本書のカバーに使用されている写真が実は件の金子文子のものではない、ということ。最近明らかになったその事実を出版元も承知しているはずであるから、誤りを訂正するためにも全面的な改訂版が刊行されることを望むばかり。※待望の増補改訂版登場旧版の刊行から７年目にして、ようやく「増補新版」の登場と相成った。なによりも文子の手記が全文収録されたというのはありがたいこと。訊問調書の部分などに多少の誤植・校正ミスは残されているものの、この一冊があれば金子文子の人となりが理解できるだろうと思う。ただ残念なのは、旧版のカバーにも大きく使われていた肖像写真は別人のものであったことを認め、本人の写真に差し替えられたのはよいのだが、それについての言及が一切ないこと。件の写真が「金子文子」その人であるという誤りは、世間的には今もって払拭されていないはずであるから、せめてあとがきの末尾にでも編者のひとことを添えてほしかった。とはいえ、本増補新版の刊行によって金子文子の真実を知る人が一人でも多くなることを願う気持ちはなんら変わらない。（2013/12/02）